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Singing MC Breeze"Another Sad Song"(Breeze Records DM 86007)1986

singingmcbreeze.jpg

シンギング・M.C.ブリーズはフィラデルフィアで'80年代半ばから
現在まで活動を続けるジョーイ・B・エリスによるプロジェクト。
このシングルは彼のデビュー作になります。

詳しい経歴は不明('02年に自伝的な映画"Philly Boy"を発表して
いるのでそれを見ればわかるようですが)なのですが、ピザの宅配業で
稼いだお金で'85年に自身のレーベル、ブリーズ・レコーズを設立し、
今作を発表。'80年代いっぱいまではMCブリーズ名義でシングルを
数枚リリースするのですが、'90年代に入るとMCハマーに接近して
彼のレーベル、バスト・イットと契約。本名で同レーベルに
プロデュース/アレンジ作を数曲残しています。その後は
フィラデルフィアに戻り、インディながら細々と活動しているようです。

このシングルはメインの楽曲はA面の"Another Sad Song"だったのですが、
B面2曲めの"Discombobulatorbubalator"のほうが中国系アメリカ人に
対して差別的な表現をしている(中国人は猫や犬も調理して食べて
しまうんだ、というくだりがあるらしい...)とのことでセンセーショナルな
話題を呼び、ラップのレコードとして初めて放送禁止の処分を食らった
ものになったとのこと。本当に初なのかどうかはマユツバですが、
この後ラップのレコードがストレートで率直な物言いに進化していく
ことを考えると、ある種先鞭をつけたものだとは言えるのかもしれません。

その一方で彼は芸名通り唄うこともウリにしていて、ハードなヒップホップの
トラックにポップな唄をのせた曲も多いです。その辺が芸風のかぶるハマーに
気に入られるところになったのかも。

今作の作曲/プロデュースはブリーズ自身。スクラッチ担当としてDJの
ハンド・マスター・フラッシュが参加しています。

"Another~"はミディアム・テンポのTR-808のビートにタメの効いたシンセ・
ベースとふんわりしたストリングス・シンセが絡み、その上をブリーズが
唄いあげるラブ・バラード。多重録音のコーラスやファルセットも使い、
露骨な表現やラップは一切入らない甘い曲。

B-1の"It Ain't New York"は「NY産のラップがサイコー」と語る女性に対して、
「ここはフィリーだ。(俺たちのヒップホップが)どこで始まったか教えてやるよ」と
説き伏せる曲。TR-808とシンセ・ベースの粗いビートにのせて、2人のラッパーが
ラン=DMC風に掛け合いを聴かせます。サビではチープなシンセとユニゾンで
曲名を唄い、終盤には"Phil-Phil-Philadelphia"とコスるスクラッチや
下手なヒューマン・ビート・ボックスも聴こえてきます。

問題の(?)"Discombobulatorbubalator"は、ファンカデリックの"You'll Like
It Too"のドラムとTR-808を組み合わせたビートをバックに、自宅のそばに住む猫や、
ダメな隣人、中国系アメリカ人の生態などを次々と語る曲。サビで突然
「ヤクヤクヤクヤクヤヤックヤーッ!!」と絶叫したり、デタラメな
チャイニーズ・イングリッシュを繰り出す等メリハリが効いていて面白いです。
アジア人としては少々複雑な気分になる内容ではありますが、アップ・テンポの
この曲がいちばんウケが良かったというのもわかる気がします。

デビュー作なので持ち札を全部並べたようなところもあるのでしょうが、
曲によって雰囲気が全く違い、同じ人の作品とは思えないようなつくり。
この後の活動ぶりを見てみると、唄ものがいちばん得意だったようですが...



"Another Sad Song"



"It Ain't New York"



"Discombobulatorbubalator"




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The Masterdon Committee"Gotta Get You Hot Off The Music"(Enjoy ER 6029)1982

masterdon_gotta.jpg

"Gotta Get You Hot Off The Music"は'82年にリリースされた、
マスタードン・コミッティーのデビュー・シングル。彼らの経歴に
関しては以前"Funkbox Party"を紹介した際に詳しく書いたので、
そちらをご参照ください。

2回めなので、前より詳しく書いてみようと経歴を改めて調べたり
したのですが、ろくなデータがない...彼(マスター・ドン=ドネル・
マーティン)は'93年に脳腫瘍で亡くなっているため、残された親族や周辺の
ミュージシャンへのインタビューがここに載っているのですが、やはり本人でないと
面白くかつ正確な話は聞けないですね...DJのスキルの高さ、
独特なファッション・センス、モテモテで常に女性に囲まれていた...といった
断片的な話題が中心でした。彼らはハーレムを中心に活動していたため、
その周辺のミュージシャンたち-カーティス・ブロウ、ダギー・フレッシュ&バリー・B、
ディスコ・フォー、トレチャラス・スリー、フィアレス・フォー等-の横の繋がりやビーフが
分かったのは面白かったですが。曲に関しても、代表作"Funkbox~"についての
話題は常に出てくるのですが、今作を含めた他の4枚のシングルについては
誰も語っていないのでした。

プロデュースはエンジョイ・レーベルのオーナー、ボビー・ロビンソン
ですが、実際の音作りやバックの演奏を行っているのはパンプキン
彼の周辺のスタジオ・ミュージシャンになります。

パンプキンのファンキーなドラムのフィル・インからはじまり、
ピーシズ・オブ・ア・ドリームの"Mt. Airy Groove"を引用したエレピが
ピピピとアクセントを入れます。ファズのかかった太いシンセ・ベースを
バックに、メンバーが"We Gotta Get You Hot~"と集団でラップします。
その後も「ホット! ハハッハハッハー」と何度も繰り返しながらユニゾンで
ラップして盛り上げていきます。短くヴォコーダーやパーカッションの
ソロを交えながらコーラスが続いた後、女性のペブリー・プーから
ソロ・パートへ。一人がしゃべると集団ラップが応えるように返す、
の流れを繰り返し、終始盛り上がりっぱなしのままフェイド・アウトします。

唄ものとラップの中間のようなスタイルで、コーラスとガヤの迫力で
押し切るパーティ・チューン。ヴォコーダーやシンセ・ベースも入って
いるものの、生ドラムを中心に据えた音作りはエレクトロというより
ディスコ・ラップ直系に聞こえます。こういう音はライヴの現場で
聴いてみたいですね。






Scorpio"(Go Michael)Air Jordan"(Criminal CRIM 00008)1986

scorpio_gomichael.jpg

スコーピオはグランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴ
メンバーであるラッパー。この曲はグループが一時分裂状態にあった'86年に
リリースされたもので、ソロ名義では'85年の"Black Shades"につづいて
2枚めになります。

彼は本名をエドワード・モリス(Edward Morris)といい、'60年10月12日に
ブロンクスで生まれています。幼少時の様子は不明なのですが、17歳の頃に
ティミー・ティム(MC)&クラーク・ケント(DJ)が行っていたライヴ・
パフォーマンスに衝撃を受け、自らもラッパーになる決意をしたとのこと。
その後、ジュニア・ハイスクール時代からの友人だったメリー・メルに
誘われて、フューリアス・ファイヴの4番目のMCに加入します。そこから
シュガーヒルを離れる'84年ごろまでの話はメリー・メルの項を参照して
ほしいのですが、当初は良好だったレーベルとの関係が'82年の"The Message"の
頃からギクシャクし始め、権利問題で揉めるようになって完全に決裂。
スコーピオはラッセル・シモンズのデフ・ジャムに接近するのですが、
そこでシュガーヒル側から契約期間が満了していないからと邪魔が入り、
ますますシュガーヒルに敵意を抱くようになっていったとのこと。
ちなみにメリー・メルはこの頃まだシュガーヒルに留まっていたのですが、
彼との友情は変わらず続いていたそうです。

すったもんだの末スコーピオは(ファット・ボーイズをヒットさせていた)
ストラ・レコーズと契約。ソロ・デビュー曲"Black Shades"をセルフ・
プロデュースで発表します(ゲストでメリー・メルも参加)。翌年には
設立されたばかりのアーサー・ベイカーのクリミナル・レコーズと
契約を交わし、今作を発表。

タイトルからもわかるように、今作はNBAのスター・プレイヤーだった
マイケル・ジョーダンに捧げたもの。インタビューによるとスコーピオは
ジョーダンの熱烈なファンで、今作にも本人に参加して欲しいとシカゴ・ブルズの
試合がNYで行われた際にスタジアムまで会いに行ったが、ジョーダンは
その場に現れなかったとのこと。なんだかほほえましいエピソードですが、
ジョーダンの音楽の好みはクワイエット・ストーム系の甘いR&B(アニタ・
ベイカーとか)らしいので、コワ面のラッパーが現れて戸惑ってしまった
のかもしれません(笑)。

今作のプロデュースはスコーピオとベイカー。スクラッチ担当として
(デフ・ジャム時代に縁が出来た?)ジャズィ・ジェイが参加しています。

バスケの試合中によく流れるようなファンファーレ風のオルガンにつづいて、
飛行機の離陸音が流れ、スコーピオが"Go Michael,Air Jordan~"と
可愛らしい声で(ラップでなく)唄います。TR-808がユル目のビートを刻み、
ジェイがジョー・テックスの"I Gotcha"やジャッキー・ロビンソンの
"Poosy Footer"等をコスります。つづいてスコーピオのラップがスタート。
スクラッチ音を従えつつ、ジョーダンがいかにスゴいプレイヤーかを
語っていきます。サビでは冒頭のコーラスが再び現れ、その後はここまでの
流れが繰り返されますが、終盤は"Air! Air! Air!""Jordan! Jordan! Jordan!"と
左右のチャンネルに振り分けられた声が連呼されてフェイド・アウトしていきます。

グループ時代の圧倒的な集団ラップを耳にしているので、ひとりで
パフォーマンスするこの曲はかなり物足りない...まあ今作は彼のアイドルへの
ラヴ・ソングみたいなものなので、どこか遠慮がちになってしまったのかもしれません。
ドラム・マシンとスクラッチのみのトラックは初期のデフ・ジャム風。これは
ジャズィ・ジェイの色が出たのでしょうか。



動画は曲の頭2分弱ほどだけのものしか見つかりませんでした...

X-Ray Vision"Video Control"(Manhole X-RAY 001)1984

xrayvision01.jpg

X-レイ・ヴィジョンはスペシャル・リクエストザ・バガーズ等を
紹介済のホセ"アニマル"ディアスによるプロジェクト。レーベルも
バガーズと同じマンホールです。

ホセはクイーンズ生まれのヒスパニック。生年は不明ですが'60年代
半ばごろと思われます。彼の母親はオペラ歌手で、幼少の頃は音楽に
囲まれるように育ち、自然とそれに関わる職業に就きたいと思うように
なっていったとのこと。当初はギターを習っていたのですが、十代後半の
時に友人がオサラを廻すクラブへ連れていかれ、そこでの聴衆の熱狂ぶりに
衝撃を受けて、自身もDJに転向する決意をします。

当初は地元の小さなクラブで活動を始めたのですが、彼の高いスキル、
場の空気を捉える能力等からすぐに多くのクラブからお呼びがかかる
ようになり、NYの人気クラブ-キット・カット・クラブ、クラブ・エキスポ、
パレイディアム、ヴィサージ、チャイナ・クラブ等-でもプレイする
ことになります。

クラブDJとして人気が高まるとつづいてラジオにも進出。WKTU局を
中心にWHTZ、WQHT等でも活躍し、オン・エア中に生でミックス・プレイの
妙義を聴かせ、クラバー達以外からも人気を得るようになります。
そうしているうちに彼の名がレコード制作の現場にも届くようになり、
'82年にイタロ・ディスコ系ボー・ボスの"Tequila"(チャンプスのカヴァー)
という曲のリミックスからスタジオ仕事にも関わるようになります。

その後はラジオDJを続けながらレコードでのリミックスも手掛け、
マン・パリッシュの"Hip Hop,Be Bop"サイボトロンの"Clear"等の
ヒットにも貢献。さらに、ジョンズン・クリューのリミックスでトミー・ボーイと
縁が出来た彼は、同レーベルに友人のカルロス・デ・ヘスースと作った
スペシャル・リクエストのデモを持ち込み、この曲が"Salsa Smurph"
としてリリースされることになります。

つぎつぎとヒット・レコードに関わるようになったこの頃、スペシャル~の
ように比較的大手のポップス寄りの作品ではなく、自身の作りたい音を
追及するレーベルとしてホセとカルロスが設立したのが今作のマンホールに
なります。X-レイ~とバガーズの明確な違いは不明ですが、X-レイは
ホセが中心になって作られたもののようです。

そんなわけで今作の作/プロデュースはホセが担当。ゲストとして
デリン・ヤング、ウェンディ・ユンカーなる男女のヴォーカリストが
参加しています。相棒のカルロスもA-2のラジオ・エディットで参加。

宇宙船の着陸のようなシンセのピコピコ音につづいて、エコーのかかった
TR-808が硬いビートを刻み、ファズのかかったシンセ・ベースがアクセントを
加えます。ホーン・シンセがメインのリフを奏でるとロボ声の男声が
曲名を連呼し、つづいて女性が緊張したトーンでナレイションを始めます。
ゲームのSEのようなシンセ音が何度も挿入されながらナレイションが
つづき、短くパーカッションのソロ等が挟まれながらビデオに
マインド・コントロールされる現代社会の恐怖(?)を語っていきます。
終盤は重低音のスネア連打~一音連打のシンセ・ベースでフェイド・アウト。

字面だけ追うとやけに重いテーマの内容に思えますが、音の印象は
B級SFアクションでも見ているような軽めのカッコ良さです。
エレクトロ→電子音→未来→SFみたいな、人工的でメタリックな
ダンス・ミュージックとしての出来はなかなかでした。

B面はバガーズ同様SEだけが聴ける"Sound Effects"とインストが収録
されているのですが、アーティスト名にひっかけて一部の文字が
裏返して左右逆に読むように印刷されています。裏焼きにはされて
ないところが微妙に親切(笑)。レコードの溝も内から外へ進むように
刻まれていて、遊び心が楽しいです。

この後のホセは'90年前後までラテン・ヒップホップ/ハウス寄りの
プロデュース業を行いますが、その後は芸名をDJアニマルと改めて
本来のDJ業に専念しています。HPを見ると、'00年にナゴヤドームで
カウントダウンDJを行ったのがずいぶん印象深かったらしく、
バイオグラフィや写真で大きく紹介されているのがちょっと嬉しいです。


B面。年号や回転数は通常なのに、他の文字は右から読むように印刷されています。
溝が内周からスタートするので、「聴く時はココに針を置いて」の文字も。

xrayvision02.jpg







WKTUでのDJプレイを録音した音源。プラネット・パトロールの"Play At Your Own Risk"をメインに、クラフトワーク"Numbers"や
「プラネット・ロック」等が挟みこまれています。0:20~に映る画像で美女に挟まれているのがホセです。

プロフィール
クロい音楽全般が好きなのですが、 ここではエレクトロとオールド・スクールの アナログ盤に絞って紹介していきます。

KDMX

Author:KDMX

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